「欧米で甲状腺全摘,あるいは全摘が手術合併症を伴うので敬還するとしても準全
摘を強調し,精神としてはとにかく甲状腺組織を全部摘険して血行性転移に備える
という姿勢が強いのに対して,日本は大きく違い,よく分化した乳頭癌患者に対し
ては一側腺葉切除あるいは日本でいう甲状腺亜全摘を行う施設が大半を占めます。
ところがリンパ節郭清となると態度が一変し,非常に積極的です9)。欧米では,肉
眼的に所属リンパ節が転移を起こして腫れている患者ではmodified neck dissection
を行うけれども,明らかに腫れていない患者では気管周囲の郭清を行うだけで,内
外深頸リンパ節群には手をつけない。これはほとんどすべての施設で一致した見解
です。日本とは大きな違いです。
その理由を考えてみると,日本ではよく分化した乳頭癌で,とくに若い年齢の患
者にけっこう激しくリンパ節転移の起こるものが多くみられます。不思議にリンパ
節転移の有無と生命予後とは関係ないのです。しかし患者にしてみるとリンパ節転
移は気になります。したがって十分に郭清しょうということになります。それとも
うつ,日本の外科医は,陣内仏之助先生の胃癌患者における徹底したリンパ節郭
清の提唱以釆,とにかく癌の手術ににリンパ節郭清はつきものだという考え方をしま
す。しかし欧米では,もともと甲状腺癌というと濾胞癌が多く,血行性転移で悩ま
された歴史があります。そこへもってきて,乳頭癌でリンパ前転移が目立たず郭清
しなかったとしても,その後リンパ節転移が腫大してくるのはせいぜい10人中1~2
人で、しかもその腫れてきた患者をその時点で郭清するということで、別に生命予後
は悪くならないという結果が出ています。
(中略)
3年前のちょうど今頃,読売新聞の記者が私のところに果て話を聞かせてほしいというのです。なぜかというと,ある病院で甲状腺乳頭痛で50歳のときに手術された現在60歳過ぎの女性ですが,手術を終えて間もなく同じ側の内頸静脈の前面にあるリンパ節が固く触れるようになって,転移が起こってきた一起こってきたのではなくて手術のときに取り忘、れたということなのでしょうが,さてそこで医者にしてみると,転移だから取らなければいけないということになるわけです。しかし本人は手術は嫌だということで,聞いたところによると10力所くらい病院を廻ったらしいです。どこの病院へ行っても,放っておいたら2,3年しか命がもたないと言われた。だけれども,友子医大の藤本のところに行フたときだけ,手術がいやなら放っておいてもいいと言った。実は私も「簡早な手術ですから取りましょう」と言ったのですが,手術が嫌だとおっしゃったし,小さくて外からよく触れるところにあるのです。それで「経過をみましょう。あわてて取らなければならないものでもないので,2,3年経過をみてもいいです。大きくなるようだったらそのときに考えてもいいし,手遅れということにはならないでしょう」ということを申し上げたのです。そうしたら2年が3年になり,4年になり、然大きくならないので,最近は「無理に取らなくてもいいのではないですか」と言ったわけです。「そんなことをいったのは先生だけです,ほかの9人の先生は取らないと生命がなくなるとおどかされたけれども,私はこのようにいまだに元気で生きています。リンパ節も大きくならない。」という話を聞いたので,先生に話を聞かせてくれということで,記者が私のところに果たのです。」
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